今回は以前取材に来て下さった方とのQ&Aセッションの内容を公開したいと思います。
取材担当・編集者 : 小口シュウイチ
【廣瀬貴大氏プロフィール】
岐阜県立衛生専門学校を卒業後、看護師としてのキャリアをスタートさせた廣瀬貴大氏は、現場で培った経験と知識を基盤に、医療と介護の分野で15年以上に渡って活躍してきました。その情熱と使命感から、2020年に株式会社like ONE selfを設立し、代表取締役に就任。
同社では、訪問看護ステーションひまわりや訪問介護ステーション楓など、複数の事業所を運営。看護師、理学療法士、介護福祉士など、各分野の専門スタッフを揃え、高齢者や小児、精神疾患を抱える方々など、幅広い利用者のニーズに応えています。質の高いサービスを提供し、地域社会に貢献することで、訪問看護ステーションひまわりでは99名もの利用者に支援を行うなど、目覚ましい実績を上げています。
医療と介護の現場で培った知見を活かし、社会におけるケアのあり方を探求し続け、誰もが尊厳を持って生活できる社会の実現に向けて、日々邁進しています。
編集者:本日は、株式会社like ONE selfの代表である廣瀬さんにお話を伺います。廣瀬さん、よろしくお願いします。
廣瀬:よろしくお願いします。今日はありのままの思いをお話ししたいと思います。
創業期の資金繰り
編集者:まず、創業期の資金繰りについてお聞きしたいと思います。創業資金はどのように調達されたのでしょうか?
廣瀬:創業時は、前職で頑張って貯めた退職金と貯蓄から400万円、日本政策金融公庫さんから700万円、そして両親から300万円借り入れました。合計で1,400万円の創業資金を調達しました。両親には本当に感謝しています。
編集者:資金繰りに苦労されたことはありますか?
廣瀬:そうですね。弊社は保険事業を行っているため、収入の9割近くが2ヶ月後にしか入金されません。そのため、お金の流れに苦労しました。
編集者:その状況を打開するために、どのような対策を講じられましたか?
廣瀬:初期の資金に加えて、ファクタリングというサービスを活用しました。2ヶ月後に入金される売掛金の7割を先に受け取れるサービスです。月1%の手数料がかかるので、実質年利は12%を超えていたと思います。今は利用していませんが、当時は助かりました。
人材確保と育成
編集者:次に、人材確保と育成についてお伺いします。人材確保で苦労していることはありますか?
廣瀬:おかげさまで、優秀なスタッフの紹介のおかげで、今日に至るまで採用費用は0円を維持しています。でも、嬉しい悲鳴なのですが、お客様からの依頼が右肩上がりで増えているため、人材は常に足りない状態です。
編集者:どのような人材を求めていらっしゃいますか?
廣瀬:自分自身をしっかり見つめ、将来の展望を持っている人、あるいはそれを見つけたいという想いのある人を求めています。一緒に働きながら、お互いに成長できる人が理想です。
編集者:人材育成のために、どのような取り組みをされていますか?
廣瀬:半年間のしっかりとした試用期間を設け、まずは会社に適応できるようにマンツーマンでサポートします。その後は、一人ひとりの想いに寄り添い、その人に合ったオーダーメイドのサポート体制を整えていきます。また、評価制度を導入し、何をしたらどのような評価(給与も含む)になるかを明確にするよう努めています。
長時間労働とプレッシャー
編集者:経営者としての働き方についてお聞きします。廣瀬さんご自身は、どれくらいの時間働いていらっしゃいますか?
廣瀬:創業から4年が経ちますが、最初の3年間は休みなしでお客様のところへ訪問していました。今年に入ってからは、訪問がない日が少しずつ作れるようになりましたが、電話対応などがあるため、完全にオフの日はありません。気持ち的にもオフという感覚はないですね。
編集者:経営者としてのプレッシャーはどのように感じていますか?
廣瀬:正直、経営者としてのプレッシャーというよりは、理想の訪問看護を提供できているか、まだまだやるべきことがあると思うと、看護師としてのプレッシャーの方が強いです。
編集者:仕事とプライベートの両立はどのようにされていますか?
廣瀬:時代遅れかもしれませんが、大きな目標を持った時点で一般的な両立は難しいと考えています。家族の理解と自分の体調次第ですが、仕事とプライベートの区別はつけていません。
編集者:競争が激しい業界で、どのように差別化を図っていらっしゃいますか?
廣瀬:弊社のスタッフは看護師をはじめ、みな専門職なので、自分の中に強い想いがあると信じています。だから、誰かと競争するというよりは、自分の看護が患者さんのお役に立てているかを常に考えています。人生をかけて向き合っているようなイメージです。「十人十色の医療や介護」という言葉がありますが、その通りだと思います。一人ひとりに合ったケアを提供することで、自然と差別化につながると考えています。
競争激化と市場の変化
編集者:市場の変化にはどのように対応されていますか?
廣瀬:もちろん、大きな流れには逆らえません。利用者のニーズと国の政策が市場の変化を生み出すので、変化に取り残されないよう、常にアンテナを張って、柔軟に対応できる力を養うことが大切だと考えています。
編集者:今後の事業戦略について教えてください。
廣瀬:私個人としては、今40歳なので、45歳までにはまた現場に戻りたいと思っています。そのためには、仕事を任せられる人材を育て、しっかりとした事業運営の仕組みを作ることが大きな目標です。
事業戦略としては、訪問看護を中心に、リハビリ、訪問介護、ケアマネ、事務、デイサービス、障害者支援など、それぞれの専門職が力を発揮し、一つのサービスでは補えない部分を互いにカバーし合える体制を目指します。バランスの取れた多様なサービスを提供することが事業戦略の要だと考えています。
社員とのトラブル
編集者:社員とのトラブルを経験したことはありますか?また、どのように解決されましたか?
廣瀬:給与や休暇、職種間の業務量の差などに関する不満が多いですね。現場の方に多いとは思っていましたが、直接言われるのは初めてだったので、正直困ってしまいました。
解決方法としては、まずはしっかり話を聞き、できる対応を提案するようにしています。ただ、具体的にどうしてほしいのかを聞いても、明確な要望があるわけではないので、すぐには変化が見られないかもしれません。正直、解決への正解は一生探し続けるものだと思っています。だから、いろいろな本を読んでヒントを探しています。
編集者:従業員満足度向上に向けた取り組みを教えてください。
廣瀬:満足度の定義が一番の悩みです。結局のところ、多くの人にとって給与が上がることが一番だと思います。弊社では、社用車の全員支給、毎日の500円の弁当代支給、スマホ・タブレットの全支給などを行っていますが、すぐに当たり前になってしまうのが現実で、要求がどんどん増えてしまいます。理想を共有して一緒に頑張ろうという思いで引っ張っていきたいのですが、なかなか簡単ではないと実感しています。
家族との時間不足
編集者:家族との時間をどのように確保していらっしゃいますか?
廣瀬:ほとんどないですね。でも、中学1年生と小学4年生の娘の器械体操の練習の片付けとお迎えは、なるべく行くようにしています。私自身、小さい頃に親にしてもらっていたので、同じようにしてあげたいんです。今はそれくらいしかできていませんが、火曜、水曜、金曜、土曜、日曜の21時から22時の間は娘のために時間を作っています。
編集者:家族との時間不足による罪悪感は感じますか?
廣瀬:罪悪感という質問に対しては、全く感じていません。この考えは、ジェンダーフリーや男女共同参画の子育ての時代からは批判されそうですが…。家族のためにも頑張ろうと思って働いているので、後ろめたさはないんです。
編集者:家族との良好な関係を維持するために、どのようなことをされていますか?
廣瀬:先ほどの質問と重複しますが、子供の大事なイベントにはなるべく参加するようにしています。また、会社の問題で家族に迷惑をかけないよう細心の注意を払っています。そして、誕生日やクリスマスなどには、妻や子供の欲しいものを買ってあげられるよう、頑張って稼ぐことも大切にしています。
孤独と責任感
編集者:経営者として孤独を感じることはありますか?
廣瀬:とてもよく感じます。社長と呼ばれることに違和感があるし、どこか社員との間に距離を感じてしまいます。何かを決める時には、自分の意見が絶対になってしまったり、知らないうちに物事が進んでいたりします。両親からは、社員と家族を支えているからと励まされますが、胸の内を全て話すことはできないんです。
編集者:責任感の重さに押しつぶされそうになることはありますか?
廣瀬:それは特にありません。社長という役割が自分に合っていないと常々感じているので、優秀な社員に支えられて、歴史上の名君のような社長になれれば、重圧に潰されることはないだろうと思っています。
編集者:孤独や責任感とどのように向き合っていますか?
廣瀬:私の好きな言葉に、作家のギュスターヴ・フローベールの言葉があります。
「人生で最も輝かしい時は、いわゆる成功の日ではなく、落胆や絶望の中で人生に立ち向かう勇気と、未来への希望が湧き上がるのを感じた時なのだ。」
孤独や責任感は表立って語られるものではありません。でも、まさにそれを感じることは素晴らしいことなのだと。自分にそう言い聞かせて、真正面から向き合おうと思っています。
編集者:会社経営をしていて、一番やりがいを感じるのはどんな時ですか?
廣瀬:今のところは全くありません。自分の満足感には全く興味がなくて、一生懸命働いてくれている社員が増えることが、私のやりがいになるのだろうと思います。だから、今はまだやりがいを感じるべき段階ではないんです。社員のために、もっと努力しないといけません。
編集者:会社経営を目指す人に伝えたいことはありますか?
廣瀬:私のような者が言うのもおこがましいのですが、お金儲けを目的にするべきではないと日々感じています。それは専門職だからかもしれませんが、自分のやりたいこと、楽しいと思えること、自信を持ってできることに全力で取り組むことが、長く続けられる秘訣なのかもしれません。
編集者:今後の展望について教えてください。
廣瀬:漫画「GTO」に出てくる吉祥学園の理事長のようなおばちゃんになりたいです。普段は気さくな看護師として働きながら、実は社長だったというようなギャップを楽しめたらいいなと思っています。
編集者:本日は貴重なお話をありがとうございました。
廣瀬:こちらこそありがとうございました。私の想いが、少しでも伝わっていれば嬉しいです。
編集者まとめ
廣瀬社長へのインタビューを通して、会社経営の厳しさと、それでも理想に向かって前進し続ける経営者の姿勢を垣間見ることができました。
創業時の資金繰りの苦労や、人材確保・育成の難しさ、長時間労働や重圧といった課題に直面しながらも、廣瀬社長は看護師としての使命感と情熱を原動力に、質の高いサービスを提供し続けています。家族との時間が十分に取れないという悩みを抱えつつも、子供のために時間を作り、家族を支えるために日々邁進する姿は、多くの経営者に共通するジレンマなのかもしれません。
孤独感や責任の重さに押しつぶされそうになりながらも、フローベールの言葉に励まされ、真正面から向き合う姿勢に、経営者としての覚悟と強さを感じました。会社を発展させることよりも、社員のために尽くすことをやりがいとしている点からは、廣瀬社長の人間性の深さが伝わってきます。
理想の社会の実現に向けて、今後も看護師と経営者の両面でご活躍されることを期待しています。今回は貴重なお話をありがとうございました。